こんにちは、富水教室の山田です。

先週、内申の貯金について書くと予告してしまいましたので、今週はそれについて書きたいと思います。

内申での貯金、これは本当に大きいです。
昨年度(今春)の入試では、つくづく内申って大事だなと感じました。
言葉にするとこんなアッサリですが、本当に、本当にと、本当を10回、20回書きたいくらい、痛感しました。

メンバー構成

昨年の富水、中3は5名だけだったのですが、そのうち4名が同じ高校を受けました。
同じ高校を受けるということはライバルです。
彼ら自身は、そんなこと微塵も思っていなかったようです。

内申の高かった生徒から順番に、Aくん、Bくん、Cくん、Dくんと呼びましょう。
全員『くん』と書きましたが、女の子もいます。
4人が受ける高校の合格者平均の内申と比較すると、Aくんは数ポイント貯金、Bくんはほぼ±0、Cくんは数ポイント借金、Dくんはかなり(10ポイントちかく)借金というものでした。

ちなみに、得点力ではDくんが最も高く、Aくんが最も低いという状況でした。
Dくんの得点力は、定期テストだけではなくエコール学院全体でのテストでも、何度か1位になったことがあるというものでしたので、私だけではなく友達や他の先生達も認めていたと思います。
*このDくん、以前『学校間格差、あるに決まってんだろ』というブログで書いた、内申に恵まれない生徒の1人です。

そんな状況だったので、全員合格ということを考えると、得点力に不安のあるAくんは内申で貯金を持っていて、内申では借金があるDくんは得点力を持っているという状況でしたので、当初の私としてはラッキー(戦いやすい)と思っていました。

今思えば、反省しなければいけません。
受検はそんなに甘くない。

Aくんの戦い

入試対策が始まり数回の模試を重ねた頃、Aくんが『自分はダメだ』とか『大丈夫だろうか』といった不安を口にしていました。
同じ頃、Aくんのお母様も『本当に大丈夫でしょうか』と心配をしていました。
原因は、他の3人との模試の点差を見てです。
たしかに、得点だけを見ると他の生徒より15点、20点と低い得点だったので、しょうがなかったかもしれません。

しかし、入試の合否はS値で決まります。
本人、そしてお母様には、その話をじっくりして、心配はない、順調である、ということを伝えました。
『貯金があるのだから、焦らず、自分のペースでコツコツ』これがAくんのテーマでした。

まあ、ただ内申に貯金があると言っても、実際にどれくらいのものなのかは分からないと思います。
そこで、Dくんとの比較をしてあげました。

定期テストやここまでの入試対策模試の結果を見て、Dくんには勝てないと思ってるだろ。
だけど、40点負けていいんだよ。
40点負けまでなら、S値にしたときにAくん、君の勝ちなんだ。
ここまで何回かの模試を受けて、40点の大きさは分かるよな。
それだけ君は貯金を持っているんだ。
その貯金を使いなさい。
それは、君が普段の勉強をコツコツ頑張ってきた成果なんだから、堂々と胸を張って使いなさい。
『自分のペースでコツコツ』
他の生徒達の得点に波があるのに対して、下がることなく少しずつ少しずつ上がり続けました。
1番最後だけ少し下がってしまいましたが。

Dくんの戦い

プレッシャーの足音

一方でDくん、2回目の模試までは順調でした。
2回目の模試では、いきなり60点近くアップし、他の3人を寄せ付けない勢いがありました。

それが油断を生んだのでしょうか?
神様が意地悪だったのでしょうか?
その後、苦戦(足踏み)が続きました。

得点としては、3回目はまだ1番、4回目も2番と、悪い得点ではありません。
しかし、他の生徒達に追いつかれはじめたのです。
内申では4人の中で最も下、そのDくんが得点で追いつかれる、追い越される、これは由々しき事態です。
本人は、まだケロッとしていました。
友達が解らない問題があれば、どれどれと積極的に教えてあげていましたし、不安どころかまだまだ余裕そうな雰囲気でした。
他の生徒達がじわじわと上がってくる中、Dくんの勢いはストップしてしまいました。

そして事件が起きました。

5回目の模試、何と、Dくんがビリ(4人の中で)になってしまったのです。
しかも、3位の生徒に20点ほど、1位の生徒からは60点以上も離されての4位でした。
この頃になると、さすがにプレッシャーで何が何だか分からなくなっていたと思います。
お母様の話では、家にいるときは『何をすればいいのか分からない』と漏らしていたそうです。
正確には覚えていませんが、入試の3週間か4週間前くらいのことだったと思います。

やれるだけのことをやろう

Dくんが中1のときから、彼には1度も『勉強しなさい』とは言ったことがありませんでした。
ここまできてこの言葉を使うのかと悩みましたが、その言葉は使いませんでした。
言ってしまいがちな言葉ですが、あの時それを言ったら、ただ余計にプレッシャーをかけただけだったと思います。
Dくんにかけた言葉は、『やれるだけのことをやろう』です。

みんなのことを心配してくれてありがとう。
みんなが困っているときは、いつも助けてあげていたね。
でもDくん、最後、この残り数週間は、全ての時間を自分だけの為に使おう。
まだ全力じゃないだろ。
お前が全ての力をお前だけの為に使ったら、まだまだいける。
お前の力はこんなものじゃない。
時間もあと僅か、不安かもしれない。
やれるだけのことをやろう。

そして迎えた模試の最終回、他の3人が得点を下げたということもありますが、1点2点の大接戦で何とか1位。
もちろん、内申のことを考えると1点2点差ではいけないのですが、60点以上離され崖っぷちだった状態からここまで追い上げたのは素晴らしい努力だったと思います。

最後の模試を終えた後、得点的に危険そうな生徒数名が学院長と面談をすることになりました。
我が富水で指名されたのはAくんでした。
ただ、S値で危険な生徒は、当然Dくんです。
ここでまた油断したら元も子もないので、Dくんには、『分かってるな、本当に危険なのはお前だぞ。』油断するなとクギを刺してラストスパートに入りました。

5点足りない

学力検査、面接が終わり自己採点。
その結果を基にS値を出しましたが、なかなか厳しいものでした。

Bくんには9割、AくんとCくんには7割か8割合格するだろうと伝えましたが、Dくんには○割合格するだろうとは言えませんでした。
入試の平均点、私の希望的観測も込め5点ほど下がる(実際には1.8点ダウン)と予想しましたが、それでも『5点ほど足りない』と思いました。
本人には『あとは待つだけ』と言いましたが、お母様には『5点、足りなかったかもしれません』と自分の見解をお話しました。

発表までの期間は、Bくんが一番騒いでいました。
『毎日落ちる夢を見るんです。本当に大丈夫ですかね?』
何度も聞いてきました。
私は、『さあね。分からないね。』としか言いませんでしたが、『いやいやお前が落ちたら、4人全滅だよ。』と、思っていたので特に心配はしていませんでした。

そして結果、お陰様で何とか全員無事に合格できました。

一昨年の入試、もうこんなハラハラする入試は嫌だと思ったのですが、昨年もまた心臓に悪い入試を送ってしまいました。
今年こそは・・・、どうでしょうか?

余裕のある人ない人

AくんとDくんという両極端な2人について書きましたが、BくんとCくんの過程を振り返っても、やはり内申で貯金があるか借金があるかは伸びに影響を与えます。
余裕があったAくんとBくんは、私が提示したラインにほぼ沿って上がっていってくれました。
それに対し、DくんだけでなくCくんも、余裕がなかった2人は、提示したラインに必死に食らいつこうともがいていた様子が分かります。

Aくんのデータ(1)

Aくんのデータ(2)

Bくんのデータ(1)

Bくんのデータ(2)

Cくんのデータ(1)

Cくんのデータ(2)

Dくんのデータ(1)

Dくんのデータ(2)

Dくんのデータ(3)

S値の推移

グラフにある『標準』とか『デッドライン』とか『ノーチャンス』は、私が勝手につけた名前です。
標準は、私の中でまず落ちることはないだろう、8割9割の可能性で合格するだろうというラインです。
デッドラインは、9回戦ったら5回、11回戦ったら6回は勝てるだろう、勝つ可能性の方が高いけど落ちましたといわれても不思議ではないというラインです。
ノーチャンス、これはほぼ言葉通り、これを切ったらチャンスはないだろうというラインです。
理想となっているグラフは私が提示したもの、○くんとなっているグラフが生徒達の実際の結果です。

内申1点分の価値

ところで、途中『40点負けてもいいんだよ』という数字を書きましたが、内申の1点にどれだけの価値があるのかご存知でしょうか。
内申の1点が、学力検査で何点分になるか。

事の始まりは、中3の生徒達に最後の内申に向け50日を大切にしようというところからでしたので、中3が内申を1つ上げることが、どれだけ意味のあるものかをお話したいと思います。

3年の内申の1点は、『内申(4):学科(4)』の学校では、学力検査の『約7.4点分』になります。
『内申(5):学科(3)』の学校では『約12.3点分』です。
これが入試の学力検査でどのくらい大きいものか分かるでしょうか。

教科や問題によって配点は様々ですが、理科は3点と4点の問題しかありませんし、他の教科でも3点4点といった配点が最も多くあります。
つまり、『内申(4):学科(4)』の学校では『2問』、『内申(5):学科(3)』の学校では『4問』に相当します。

この2問や4問、数学で言うなら、最初の計算問題を2問4問解かなくていいという意味ではありません。
自分が取った得点にプラスして40点上乗せして考えてもいいというものなので、自分の力では解けないような難しい問題を2問4問解いたのと同じ価値ということです。
問題によっては、正答率が1.7%というものもあります。
正答率が1.7%ということは、合格した100人の生徒の中で、正解だった生徒が2人いないということです。
これは配点が5点の問題でしたが、こういった難問を、解けていないのに解いたのと同じ価値があるということです。
他にも正答率2.0%、2.1%、2.4%、6.8%、7.4%、7.8%という問題がありました。

英語でも14.2%や14.9%という問題、国語では正答率11.7%や16.2%の問題、理科は14.6%、18.0%、社会では15.6%という難題がありました。

貯金をもっているということは、こういった問題はパスして、自分が解ける問題を確実にクリアしていけばいいということです。
それに対し、貯金がない、借金があるということは、このような強敵に背を向けず戦っていく、つまりそれが解けるようなレベルになるまで自分を高めなければいけないということです。
解ける問題を確実に解けるように精度を高める練習(勉強)と、いま解けない問題を解けるようにならなければいけないという勉強、入試が近づけば近づくほど、かかるプレッシャーは雲泥の差です。

50日後の定期テストで決まる内申は、たった1つでこれだけの重み、価値があるのです。
もしこれを、2つ3つと上げることができたなら、どれだけ自分自身を助けることになるか。

機会があれば、Dくんの声をみんなに聞かせてあげたいですね。
直面した本人なので、その声は誰の心にも届くと思います。

この記事を書いた人

山田 明史