本日(令和4年2月15日)実施された神奈川県公立高校の学力検査について、理科の問題分析と難易度をいち早くお知らせします。
文中で表記されるA~Cは次のような指標です。
A | 難しい。予想正解率30%未満 高度な考察や思考力が問われる問題 | |
---|---|---|
B | 標準。予想正解率30%以上60%未満 原理や原則を問われる問題 | |
C | 簡単。予想正解率60%以上 知識が問われる問題 |
なお、各設問の表記は
問題番号 解答(例) 難易度
の順で表記します。
まず全体的な難易度ですが、昨年並か、やや易化だと思います。とはいえ昨年はここ数年でも難しめの年だったので、今年も難しめだったと感じたかもしれません。
模試の経験が何度かある人でも、初めて見るような実験設定が見られました。落ち着いて考えればそれほど大したことを聞いていないのですが、実際の難易度以上に感じてしまったかもしれません。
こういう問題の場合、上位層にとってはあまり問題ではありませんが、中下位層にしてみると難しく感じる可能性があります。
ではいきましょう。
目次
問1 物理分野小問(9点)
(ア) 6 難易度C
(イ) 3 難易度C br>
(ウ) 2 難易度A
難易度分析
アは音の性質からの出題。1つ1つ正しいか誤っているかを確かめるタイプの問題ですが、基礎的な内容しか聞いていません。
イは運動とエネルギーの問題。まったく図がないのでどんな運動をしているか文章から読み取る必要があります。とはいえ簡単な実験なので、確実に正解をしておきたいところです。
ウはオームの法則の計算。過去問演習をしている人なら「またかよ!」と言わんばかりに頻出する問題でした。しかし例年より計算の過程が多めなので、正解率は低めと予想します。まあ、選択問題なのが救いでしょうか。
問2 化学分野小問(9点)
(ア) 3 難易度C
(イ) 3 難易度B br>
(ウ) 1 難易度A
難易度分析
アは状態変化と体積の問題です。よく見かける図ですので、さほど迷わず解けるでしょう。
イは質量保存の法則を用いた計算の方法を問う問題ですが、数字で計算ができても文字だと分からない人がいそうです。これぞ原理を問う問題といったところ。
ウはプロパンの化学反応式について。化学反応式を暗記だけで処理している人を奈落に突き落とす問題です。カギはC原子の数で、そこを糸口に順を追って数字を埋めていけば問題ありません。
問3 生物分野小問(9点)
(ア) 3 難易度C
(イ) 1 難易度B br>
(ウ) 4 難易度B
難易度分析
アは体細胞分裂の順番を問う問題。教科書レベルなので今回最も正答率が高いと予想されます。
イはみんな大好き対照実験の問題です。対照実験を設定するときは、「きちんと反応する例」を見つけるのがポイント。今回で言うとBがそうです。あとは調べたいもの(二酸化炭素)だけが無いものを選べば良いでしょう。
ウは食物連鎖の個体数に関する問題。理科が苦手な子だと「シオカメウズムシ」を見た瞬間パニックになりますが、こんな生物知らなくても解けるようになっています。検証が必要な問題なのでBにしていますが、時間さえかければ余裕のCレベルですね。
問4 地学分野小問(9点)
(ア) 1 難易度B
(イ) 4 難易度C br>
(ウ) 4 難易度C
難易度分析
アは乾湿計の原理について。まさに原理が分かっていないと勘に頼るしかなくなってしまいます。こういう問題が本質的で良い問題なのですが、こんなのばかり出てきてしまうと難易度がえらいことになってしまうので、ほどほどが良いですね。
イは寒冷前線の通過についての問題です。簡単です(雑)。
ウは地層の問題です。2つの知識を同時に問う問題なのですが、4択問題と思わせておいて結局は2択問題が2問あるだけなので難しくありません。今回の場合も地層の重なり方の順番だけで4択問題にした方が正解率は下がります。
さあ、ここまでが小問集合ですね。いよいよ大問に入ります。
問5 中1物理分野 凸レンズの像(16点)
(ア) 2 難易度B
(イ) 2 難易度B br>
(ウ) 4 難易度B br>
(エ)(i) 1 (ii) 4 難易度B
難易度分析
アはレンズを通る光の屈折を問う問題ですが、簡単そうに見えてメチャクチャ意地悪です。そもそも像というのは光源から出た光が1点に集まるから見えるので、同じ部分から出てレンズを通った光は全部集まります。勉強している人ほど自信を持って3・4・5を選びそうですね。上位層がやらかしそうな1問。
イは焦点距離の問題。普段ならリード文に焦点距離の2倍の位置が何cmか書いてあるのですが、今回はこれをグラフからの読み取らせます。言葉で書いていないだけなのですが、正解率は下がりそうですね。
ウは像の大きさについて。これも普段は文章で表されているものですね。きちんと知識があれば難なく正解に辿りつけると思いますが、グラフの読み取りが必要なのでBレベル。
エはおなじみKさんと先生の会話です。だいたいこの二人の会話文問題は難しくなるので受検生には大変不人気だと思いますが、今回は凄い問題ぽく見えて実は虚像のしくみを説明しているだけ。さすがに中上位層は取ってくるでしょう。
問6 中3化学分野 イオンと電池(16点)
(ア) 3 難易度C
(イ) 1 難易度C br>
(ウ) 3 難易度C br>
(エ)あ 1 い 2 難易度A
難易度分析
初見殺しです。模試や演習を通じて実験設定を見たことがあれば簡単で、無ければワケ分からない問題でしょう。見たことがあるという前提の難易度設定です。
そして、個人的には出ないのではないかと予想していたダニエル電池が登場しました。教科書に載ったばかりの問題は出しにくいだろうと思ったのですが、神奈川県の容赦のなさは相変わらずでした。ちなみに生徒にこの予想は伝えていませんので、問題なかったでしょう。
アは亜鉛と銅の電子のやりとりに関する問題です。ダニエル電池の原理を理解していれば問題ありません。そもそも3以外は電子のやりとりが全部逆です。
イはイオン化傾向の問題です。イオン化傾向はある程度暗記しておくと良いですし、演習を重ねていればMg,Zn,Cuの順番くらいは勝手に覚えます。
ウはダニエル電池の原理に関する問題です。これも教科書レベルです。ここまでの3問はいずれも知識さえあれば出来るCと分類しましたが、ダニエル電池の知識・理解自体が難しいので、やや難しめのCですね(なんだそりゃ)。
エはまたまた登場のK&先生コンビです。そういえば生徒から「何で毎年Kさんなの?」と聞かれたことがありますが、考察力が足りません。
それはさておき、実験1の結果に加えて先生のセリフにある「亜鉛片の表面に金属Xの固体が付着する」が決め手です。これで亜鉛の方がイオン化傾向が大きいことが分かり、金属Xは銅と近い金属と判断できます。完答が必要な問題なので、正答率は低めでしょう。
問7 中2生物分野 消化のはたらき(16点)
(ア) 6 難易度C
(イ) 2 難易度B br>
(ウ) 5 難易度B br>
(エ) 4 難易度A
難易度分析
全体的に難しいわけではないはずなのですが、胃腸薬やら脱脂粉乳やら突然意味不明な物質が登場することで受検生たちを混迷に引きずり込む作戦でしょうか。きっとそれは狙い通りにはたらくことでしょう。
アは消化液の問題で、実験とは全く関係のない基礎知識だけで解けるすがすがしい問題です。
イはみんな大好き対照実験パート2。「酵素液のはたらき」を調べるので、酵素液のある/ないで比較をすれば良いだけです。チェックが甘いと間違えて4を選びがち。
ウは酵素液の体積とにごりが0になる時間の関係が反比例であることを確かめれば良いのですが、それを確かめるには見慣れないグラフを読み取る必要があり、ある程度以上の学力が無いと難しく感じるでしょう。
エは消化酵素のはたらきについて。神奈川県ならではの「実験の設定」です。これがかなり難しく、ほとんどの受検生がなんとなくで選んでしまうのではないでしょうか。
自信を持って解答を絞る、という意味ではAランクだと思います。もっとも、選択問題なんでラッキー正解はつきもの。正解率は極端に低くはないでしょう。
問8 中3地学分野 北の空の動き(16点)
(ア) 3 難易度C
(イ)(i) 2 (ii) 1 難易度C br>
(ウ) 1 難易度B br>
(エ)X 4 Y 4 難易度B
難易度分析
普通入試問題に良く出てくるのは南の空の動きです。まさかの北の空の動き、しかも大問で。レアです。
アは北極星が動かないことについての問題。ただの知識ではありますが、先生の解説をろくに聞いていない人は分からないと思います。
イは日周運動の向きに関する問題です。(i)は簡単ですし、(ii)も他の2つの選択肢が荒唐無稽なことを言っているので、正解するのは簡単でしょう。
ウは典型的な日周運動と年周運動の組み合わせ問題。入試の演習をきちんとやっている人であれば何度となく解いたことがある問題ですね。
エは分かってしまえばもの凄く単純で、北緯=北極星の南中高度なワケです。だから北緯0度である赤道の場合、北極星が0度、つまり地平線上にあると分かります。
……分かりますが、自分でその法則に気づくにはそれなりに問題文の読み込みと推測が必要です。決して簡単なわけではありません。
問題全体の総合的な難易度は
上位層と下位層で極端に差が付く難易度だと感じました。
なぜかというと、見たことのない実験設定が多発しているからです。
上位層は知識だけでなく原理の理解もあるので、初めて見た実験が何を狙っているのかを読み取ることができます。要は、「あ、あの問題と言っていることは一緒だな」と気づくわけですね。
一方下位層は知識中心に勉強をしているはず。見たことのある問題なら対応が出来るかもしれませんが、初めて見る問題設定の時点でよく分からないモードに入ってしまいます。だから本来の難易度以上に難しさを感じてしまう人が多いでしょう。
僕の指導している生徒も、上位層は口々に「簡単だった」「模試より出来た」「満点かも」とにこやかに話す一方で、得意じゃない生徒は「すごく難しく感じた」と言っていました。
では最後に予想平均点を計算してみましょう。難易度Aを正答率20%、Bを45%、Cを70%と仮定して、得点の期待値を計算してみたところ……ズバリ「51.8点」になりました。
実は昨年はBを50%と見積もったのですが、今年は微調整を加えて低め見積もりです。上位に優しく下位に厳しいこの問題、きっと二極化してるんじゃないかなと予想をしています。
この記事を書いた人
- 指導歴20年の理系担当講師。
Twitter始めました。ブログは長文、それ以外はTwitterで情報を発信していきますので、よろしくお願いします。
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